自粛人は晴「読」雨読で視野を「耕」す

自粛人は晴「読」雨読で視野を「耕」す

                福岡県北九州市 亀山 愛理

〈売切れ。在庫入荷は未定です〉

 

 兼ねてより買おうとしていた本が、この自粛生活の間に何時の間にかそんな表示になっていた。それはほんの四年前に発売されたエッセイ集だったのだが、マイナーな為か近所の実店舗には一冊も無く、仕方なく通販で買おうと息巻いてから早や数ヶ月。本にしては分厚く高価な事も有り、通販サイトで在庫が十分あるらしいと分かってからは「そのうち」買おうと暢気に考えていた……のがいけなかったらしい。「この自粛生活中にでも読もうかしら」と、何気なく思い立った私が件のサイトで目にしたものこそが「売切れ」の文字だったのだ。

 

(いったいどうして!? なんだってこの本がこんな状況になっちゃってるの!?)

 私はその本を買う伝手が減った事に大変動揺し、入手困難になる可能性に不安を覚えた。

(入手困難コースは凄く怖いけど……、悪い方向にばかり考えても仕方ないか。せめて何か良い事でも見つけられないものかな)

 そう考え直して暫く眼前のディスプレイを見つめていたのだが、ふと「在庫切れ」の文字に嬉しい気持ちが湧いてきた。その本は世間から見ればマイナーで、様々な著作を扱う作者のコアなファンが買う様な代物なのである。それを踏まえると、その人のファン仲間が実は他にも沢山居て、そんな仲間たちがこの自粛生活の折に、「作者さんの頭の中を覗いてやろう」と、この本の通販サイトを訪れたのだろう事が窺える。それに気が付いた私は、同じ本に辿り着いた人同士の繋がりを感じて、不思議と朗らかな心持になれたのだ。

 

 そのような過程を経てからやっと、私は例の本を再び探し始めた。幸いな事に、その本はある出版社の通販サイトで購入する事が出来た。肝心の中身は期待通りで、私にとって至高の一冊となったのだ。私はこの本に出逢えたお陰で、物事を多方向から様々な価値観で見つめ直す事の大切さを、いま一度学び直す事が出来た。また、それを受けて自分の日頃の生活態度を鑑みる時、自粛生活を我慢の日々と捉えるよりも、世間が皆一様に立ち止まっている状況下で、「自分の行いを省みる時間」が出来たのだと思える方が、余程素晴らしいのではないかと気付かされたのである。

 

最後になってしまったが、その本の表題は『吉野朔実劇場All IN ONE吉野朔実は本が大好き』(吉野朔実著,本の雑誌社,2016年)という。    2020526

 

 


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